火鳳燎原』第七巻

 各話の副題
 主な登場人物

  ここには各話のあらすじを載せます。

  登場人物の台詞は緑色、
  解釈が怪しげな部分は赤くなっています。


  ここには、補足的な解説や私見を載せます。


第五十一回 臭蟲與皇朝
燎原火、小孟、王剛、紫王

 虎牢関における激戦は、引き分けに終わった。
董卓が長安に遷都し、諸侯たちの方では互いに疑心暗鬼となったため
彼らは営を解き、方々に散っていった。

 燎原火と小孟は呂布に贈る進物の隊列を率いて、一路長安に向かっていた。
天下は乱れ、賊が溢れている為、彼らの護衛として清風幇が就いていた。
 燎原火が先行し前方の安全を確認しているとき、小孟・王剛らが
紫王と呼ばれる者の軍隊に襲撃された。
王剛は小孟と部下たちを逃がそうとするが、瞬く間に包囲されてしまう。

 燎原火が引き返すと、そこには清風幇の者たちの死体の山が築かれていた。


 この回から「界橋の戦い」が始まります。
この章では、袁紹軍がその悪役っぷりを余すところ無く発揮しています。
袁紹が特に好きというわけではない私でも、「何もここまで酷い扱いにしなくても…」
と思ってしまいます。



第五十二回 頂点漢子
燎原火、小孟、王剛、袁紹、袁方、文醜、紫王、公孫瓉、公孫越、韓馥

 清風幇の者たちは、軍隊の向かった先を指して息絶えていた。
燎原火は彼らの指示を頼りに馬を進めた。

 一方、小孟は捕らわれの身となっていた。
 小孟らが進んでいた道は長安から北平に通じている。
それらの都市は董卓、公孫瓉の領地である。
袁紹の配下である紫王は、小孟らの隊列を、そのどちらかに属する補給部隊と
決め付け襲撃したのだ。
 小孟は兵士に激しく尋問されるが口を割らず、虫の息となった王剛に
自分を置いて逃げるよう命じた。
しかし王剛は頑として退かなかったため、紫王とその副将の嬲り者にされた。

 公孫[王賛]は袁紹軍に追撃されていた。

 関東軍が瓦解した後、諸侯らは弱小勢力の併呑を開始した。
袁紹は共に韓馥を攻めるよう、公孫瓉を誘った。
191年、袁紹は公孫瓉の出兵に先んじて、韓馥を救うことを口実に鄴に侵入、
奇襲し冀州を奪取した。
 これを知った公孫瓉は、すぐさま鄴に出兵した。
しかしその途上で袁方の伏兵に遭い、大打撃を受けた。その後、袁方が退路を塞いだため、
北平へ退却するには、太行山を迂回せざるを得なくなった。
そして今、彼らも紫王の軍に襲撃されようとしていた。

 その頃、燎原火は王剛の亡骸と対峙していた。
彼の指は北を指し示していた。


 私がオリキャラの中で最も好きな王剛が逝ってしまう回です。
良いキャラなので気に入っていたのに、まったく惜しい人を亡くしたものです。
で、その最期に、彼の息子が後の魏の虎威将軍"王双"だと暴露されているわけですが。
これで王剛に対する好感度が更にupですよ。
流星鎚好きが高じて、王双も好きなんですよね。



第五十三回 除蟲者
燎原火、小孟、張雷、郭昂、袁紹、文醜、紫王、公孫瓉

 公孫瓉軍は紫王の軍に追撃され、森の中に逃げ込んだ。
しかし、そこには文醜の率いる軍が伏せていた。
 多数の犠牲を出しつつも、公孫瓉は更に逃げた。
その先には進物を載せた荷車、そして縛られたままの小孟が置き去りにされていた。

 公孫瓉とその部下たちは荷車の陰に隠れたが、袁紹軍に完全に包囲されてしまった。
袁紹軍が投降を呼びかけるが、公孫瓉の部下は主に忠誠を誓っていた。
彼らは援軍の到来に一縷の望みを託し、時間を稼ぐため袁紹に談判を要請した。
袁紹はそれに応じるふりをしつつ、紫王と弓兵隊を高台に向かわせた。

 高台を登る紫王を一人の男が待ち構えていた。それは燎原火だった。
紫王は兵士たちを副将に任せ、彼との一騎打ちに応じた。
一方、登頂した弓兵隊には残兵の二人が待ち構えていた。

 一騎打ちは燎原火の勝利に終わった。
「あれは司馬家の商隊だと?
言っておくが、司馬家では袁氏には敵わんぞ」
「だから、お前の姿を借りて助けに行くんだよ」

そう言うと、燎原火は紫王の鉄仮面に手を伸ばした。
「英雄が美女を救うか…綺麗な花には刺があり…花びらには…」
「花びらにはお前のような"害虫"が群がっている。
お前が害虫なら、その主も害虫だ!」


 紫王が動かないことを袁紹が不審に思っていると、そこへ紫王が駆け戻ってきた。
「害虫を駆除しに来たぜ」


 便宜的に害虫と訳しましたが、原文では"臭蟲(=臭虫)"となっています。
手元にある中国語辞典でこの臭蟲をひくと、トコジラミ、ナンキンムシとしか
書いてありませんが、多分、侮蔑の言葉として使用されているんでしょう。
ちなみに、南京虫はカメムシ目トコジラミ科の昆虫らしいです。



第五十四回 又見趙雲
燎原火、小孟、張雷、郭昂、劉備、関羽、袁紹、顔良、文醜、公孫瓉

「袁紹に救国の心は無く、罪無き者を殺戮している!
俺はここに反逆するぜ!」

 紫王に扮した燎原火に文醜が襲いかかった。
燎原火と文醜が駆けながら打ち合いを始めた。

 それを見て困惑する紫王の部下たちに、燎原火が呼びかけた。
「てめえら何ぼさっとしてやがる!早く計画通りにやれ!」
彼らがその言葉の意味を理解できずにいると、高台の方から彼らを援護する旨を
伝える声が聞こえた。
それを聞いた文醜軍の将は、紫王軍を攻めるよう号令をかけた。
事は燎原火たちの計画通りに運んでいた。

 公孫瓉は袁紹軍の同士討ちを見て、部下たちに退避命令を出した。
戸惑う袁紹軍。文醜は彼らにも燎原火を追うよう命令を下した。
これで小孟の周りから袁紹軍はいなくなった。
 燎原火は小孟が脱出する頃合いを見計らって叫んだ。
「紫王兄貴!文醜は俺が誘い出した!袁紹を殺るなら今だ!」

 文醜が兵に引き返すよう命令したそのとき、衝撃が燎原火を襲った。
郭昴以上の膂力に驚く燎原火。
「文醜!お前が間抜けだから、俺が引き返さにゃならんのだ!」
その一撃を放ったのは、袁紹軍の大将・顔良だった。彼は言った。
「小僧、貴様は紫王の弟の"紫龍"だろう?」
燎原火はその問いに肯定した。しかし、本物の紫龍は三年前に死んでいた。
顔良は鎌をかけたのだ。
「それでは貴様は…偽装した公孫[王賛]の部下というわけだ」
顔・文、二将に詰め寄られる燎原火。

 彼を遠くから眺める男たちがいた。
「紫龍?それとも子龍って呼んだのか?雲長、あいつを覚えてるか?」
「あんな命知らずな戦い方をする者は、彼を措いて他におりますまい」
「また趙雲に会ったな」



 紫龍と子龍の読みは日本語なら"しりゅう"、中国語なら"zi long"です。
個人的には、紫龍といえば聖闘士(略



第五十五回 用人之道
燎原火、劉備、関羽、張飛、袁紹、顔良、文醜、公孫瓉

 公孫瓉とその部下たちが逃げた先は、切り立った崖となっていた。
彼らはとうとう、袁紹の率いる追手に囲まれてしまった。
それでも敵に降るのを良しとせず、名実共に背水の陣で挑む覚悟の公孫瓉軍。
彼らに矢の雨が容赦なく襲い掛かる。
公孫瓉の盾となり死んでいくその部下たち。
(わしは生を貪る輩となるのか?
このような忠勇の士を持てたのに、これ以上、何を求めようと言うのか!
死しても惜しくは無いわ!わしは彼らに笑顔で応えて死ぬぞ!)


 突然笑い出した公孫瓉を、冷ややかな目で見る袁紹。
と、そのとき、公孫瓉を狙っていた弓兵に、一本の槍が投擲された。
袁紹が振り返ると、そこには「漢皇叔」と染め抜かれた旗が翻っていた。
公孫瓉を救ったのは劉備一行だった。
 旗を見た袁紹が劉備を揶揄するが、劉備も袁紹の不義を指摘する。
すると、呂布を敗ったのは妄言だと言う者が、劉備との一騎打ちを求めた。

 その将の両脇を関羽と張飛が擦れ違った次の瞬間、劉備が双剣を抜き打ちかかった。
彼の剣が当たる直前に、敵将の胴は両断された。
 勝負が一撃で決したのを見て驚く袁紹軍。
劉備らの噂が真実だと認めた兵士たちは、恐れをなして逃げ出した。
それでも袁紹が命令を出すと、軍は大崩れすることなく整然と撤退していった。

 それを見て歓喜する公孫瓉たち。
劉備は部下に公孫瓉の護送を命ずると、関羽と張飛を連れ袁紹の追撃に向かった。
呆けた顔で劉備を見送る公孫瓉に張飛が言った。
「安心しな!俺たちが命にかえても趙雲を連れて戻るからよ!」

(趙雲?趙雲って誰だ?
部下が大勢いるから忘れてしまったのか…。
天下には主のために命をかける将士はいるが、
配下のために命をかける主がいるのか?
まして、その者が自分の配下でないとしたら…。
玄徳よ!これがそなたの用人の道なのか!?)



 公孫瓉と部下たちがカッコよすぎます。そして劉備の登場も、これまた熱い。
私は呉オタですが、やっぱり三兄弟は良い!
それに引き換え袁紹は(略
 この章では公孫瓉と袁紹、劉備と袁紹の君主としてのあり方が比較されています。
劉備・公孫瓉が侠気溢れる人物として描かれているのに対して、袁紹はリアリストとして
描かれているので、一人の男として見るとどうにも器が小さく感じてしまいます。
 この袁紹が劉備たちとは性質の異なる曹操と対した時、一体どんな一面を
見せてくれるのか非常に楽しみです。



第五十六回 皇叔親征
燎原火、劉備、関羽、張飛、袁紹、顔良、文醜

 燎原火は顔良・文醜の二人を相手に、致命的な一撃を紙一重で避けつつ
善戦していたが、惜しくも打ち倒された。

「うおおおお!趙雲!」
 劉備たちが駆けつけたが一足遅かった。
「この劉備の友を殺そうって奴はどいつだ!」
 その男が劉備と見るや、文醜は噂の真偽を確めるべく襲い掛かった。
が、その前に張飛が立ちふさがる。
「文醜、てめえは挨拶の仕方も知らねえのか」

 張飛の攻撃を文醜が避け、顔良が受け止めた。
二人は体勢を立て直すと、同時に張飛に打ちかかった。
張飛はその一撃を受け止めたが、凄まじい威力で馬上から飛ばされた。
追い討ちをかける文醜。そこへ関羽が踊りかかった。
「文醜…我が一撃を受けよ!」
あまりの威力に文醜が吹っ飛んだ。
張飛が追い討ちをかけると顔良がそれを受け止めるが、間髪入れずに関羽が攻め立てる。
二人の連携攻撃の前に圧倒される顔良と文醜。
文字通り地に塗れる彼らの首に、劉備が剣を当てた。
 そこへ袁紹が全軍を引き連れ現れた。
彼らは信じられない光景を目にして愕然とした。
「呂布を敗ったのは、実際はあの二人だ」
「文醜、そう思っているのはお前だけだ。
大部分の者たちはそうは思っていない。
お前の尊い主殿を含めてな!」


 顔良らの制止を聞かず、袁紹は劉備の側に駆け寄った。
「袁紹殿が仰る事は信ずるに値します。今こそ閣下の言葉をお聞かせ願いたい!」
「私と公孫瓉の仲違いは誤解から生じました。
どうか劉皇叔には水に流していただきたい」



 演義ファンなら誰もが夢見るであろうタッグマッチの一つ、
関羽・張飛 VS 顔良・文醜がここに実現しました。
迫力があって熱いので、是非ご一読ください。
この回を読めば、残兵の二人 VS 呂布が霞んで見えること請け合いです。

 しかし今回、既に関羽が文醜を圧倒している場面があるので、官渡の戦いで
関羽VS文醜をもう一度やるのもどうかと思います。
そこで、文醜を倒すのは張遼、欲を言えば徐晃でお願いしたいところ。
まあ、誰が倒しても角が立ちそうなので、関羽・張遼・徐晃の友人トリオ(予定)で
リンチという手も。我ながらマジ外道。



第五十七回 真話假話
燎原火、小孟、張雷、郭昂、劉備、関羽、張飛、袁紹、顔良、文醜、呂布、張遼

 一九一年、袁紹と公孫瓉が私怨の戦を起こす。
初め袁氏が勝利し、界橋に追討す。
瓉、勇を奮って抵抗し、紹、功無く帰還す。

 劉備らの働きによって袁紹は退いた。
関羽が、今後は袁紹に敵視されるだろうと言うと、劉備はむしろ
趙雲を助けられなかった事をこそ悔やんだ。
「いえ、彼は名を揚げる機会を一度失っただけですぞ」

 燎原火は生きていた。死んだ振りをしていたのだ。
劉備は全身で喜色を表し、燎原火に駆け寄った。
そのとき、劉備が狙撃された。関羽が矢を防いだが、それを射たのは小孟だった。

 張雷が馬を放った。燎原火は劉備に礼を言いつつ、その馬に飛び乗った。
その途端、崩れ落ちる燎原火。彼は劉備らに支えられつつ言った。
「知ってるかい?董卓がもうすぐ死に、天下は必ず乱れる。
今のうちに基盤を築いて、将来の大事に備えてください」

 そして彼は北を指しつつ続けた。
「ここから一里先に、財物を載せた車が十台ある。
それは…あんたが理想実現の基盤を築くことへの俺からのお祝いです」
「おかしなことをする。
俺はお前を公孫瓉の部下だと思ってたんだぜ?」
「俺が公孫瓉軍かどうかは重要じゃありませんよ。
それに…劉備殿、あんたも皇叔じゃないんでしょう?」

 これには関羽が反論した。
「馬鹿を言うな。兄者は中山靖王の後裔、これは紛れも無い事実だ」
「皇叔の御旗を掲げたのは間違っちゃいない。
それに劉備殿はその心をお持ちだ!
今、あんたに足りないのは天子の思し召しだけ。しかしそれもご安心を。
数日後にあんたの下に届ける方法が有りますんで」

そう言うと燎原火は去っていった。

「まったく、取り付く島もない。あの者の性格は直情的すぎますな」
「趙雲か…」
「兄貴、今回はいくらあんたでも、あいつの話を信じられないだろ?」
「俺が無敵の人相見ってことを忘れたか?」


 そして舞台は長安に移る。
残兵の一行は、呂布の手引きで宮廷内に入ろうとしていた。
「火兄が進物を放置してくるとは思わなかったよ」
「なんだ小孟、知ってたのかよ。
俺は呂布の性格が手に取るように分かる。
奴はそんな小さい利益に拘る男じゃない。
それに俺は…人の傷口を抉るのが大好きな男だからな!」


 燎原火と呂布、彼らが再び対峙するときが来た。


 他より長めになりましたが、私のオリキャラ嫌いが加速された回です。
小孟!てめー、三兄弟と趙雲の再会に水を差すな!
この回に限らず陳某氏は、実在の人物に嫌悪の矛先を向けさせないためか、
敢えてオリキャラが嫌われるように描いていると感じることがしばしば。

 後の話になりますが、劉備と同じように、臥龍も小孟の魔の手にかかりそうになります。
あの野郎、燎原火が自分の知らない男と親しげに会話するのがそんなに嫌か。
(念のために言っておきますが、私は男です。変に深読みしないように)





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