火鳳燎原』第十七巻

 各話の副題
 主な登場人物

  ここには各話のあらすじを載せます。

  登場人物の台詞は緑色、
  解釈が怪しげな部分は赤くなっています。


  ここには、補足的な解説や私見を載せます。


第一百三十五回 忠臣之苦
孫堅、程普、韓当、朱治、袁術、無名軍師

 初平元年(190年)、董卓は洛陽を焼き払い、長安へ遷都した。
諸侯の中でただ一人、燃える洛陽を見て涙を流す男がいた。
破虜将軍の孫堅である。

 彼は突然、着けていた外套を脱ぎ、それで火を払い始めた。
兵士たちはその姿に心を打たれ、我先に消火活動に加わった。
そして、孫堅軍は三日三晩かけて、洛陽の鎮火に成功した。
しかし、彼らには息つく暇も無かった。
袁術から、洛陽は自分たちに任せて、すぐに董卓を追撃するよう命令が下されたのだ。

 時を同じくして、焼死した袁術軍の将たちが発見された。
おかしいのは、袁術軍の彼らがこの場にいて、しかも皇室の近衛軍の装束を着けていたことだ。
 その中の一人が、かすかに息をしていた。
彼は自軍に助けられたものと勘違いしていた。
「と・・・殿ですか?あと少しで任務を完了できたのに・・・。
城の南・・・そこの甄官井の中に・・・。
あと少し・・・あと少しで・・・帝を称する殿を見れたのに・・・・・・」

そこまで言うと、彼は息絶えた。

 井戸の中には、伝国の玉璽が隠されていた。
孫堅の将たちは言った。
皇帝が董卓の手の内に有る今、真の忠臣こそがこれを守護するべきだと。
そして孫堅こそが、その大任を負うに相応しいのだと。
「お前ら・・・巻き添えを喰うのは怖くないのか?」
「殿!孫家の者には、巻き添えを恐れるような者はおりませんぞ!」
「そうです!それに殿は孫子の末裔、何を恐れることがありましょう!」

「玉璽を隠し持つことが大罪だと分かってるんだろうな!」

 その日、孫堅は国家の為に決断を下した。
しかし彼は秘密が漏れようとは、夢にも思っていなかった。
関東軍が董卓討伐に失敗した後、人々は孫堅の犯した罪をなじったが、孫堅は白を切り通した。

 孫堅は袁家の命令には、玉璽に関するもの以外は従った。
初平三年(192年)、袁術は孫堅に荊州の劉表を討つよう命じた。
孫堅は荊州で劉表の部将・黄祖と会戦した。
孫堅は襄陽を囲み、黄祖は追い詰められ峴山に逃げ込んだ。
戦いの最後、孫堅は笑っていた。
とはいえ、それは苦笑だったのだが。
漢室の行く末を想っての苦笑だった。

 その日、漢朝にとって最後の忠臣の一人が露と消えた。享年三十七。


 26巻現在、孫堅が唯一登場する貴重な回です。
デザインもカッコいいのに、ここでしか見られないのは本当に勿体無いと思います。
回想シーンでいいので、息子たちと一堂に会している場面が見てみたいですね。





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