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第二百八十六回 狂妄霸王 |
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孫策、周瑜、太史慈、周泰、黄祖、黄忠、甘寧、許貢、彭遠 |
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一人は父の仇を討つため、
一人は袋の鼠を捕らえるため、
一人は漁夫の利を得るため。
三者三様の思惑が、沙羨の戦の趨勢を決する。
黄巾物見「あれは韓晞の旗印!」
「船は六十以上、兵は少なくとも五千は下りません!」
黄巾伝令「報告します!劉表の第六軍がまもなく到着します!」
伝令の報告を受ける彭遠と副将。
彭遠「では、孫策は城内にいるというのか」
黄巾副将「更に第六軍まで来るとあっては、我らに為す術はありませんな」
黄巾伝令「渠帥、我が軍の兵は残すところあとわずか。
それでもまだ攻め続けるのですか?」
彭遠「孫策め、我らの兵を一度に消耗しおって……」
彼らの前に許貢が現れた。
許貢「黄祖軍は精強にして、城内の孫策は死を待つばかり」
「所詮は若造よ。奴は急ぎすぎたのだ」
「我ら太平道は既に江東に足場を築いた」
「孫策が死ねば民心はこちらになびく。我らは座してそれを享受するのみよ」
「全軍に伝えよ。我々は撤退する。
そして荊州に使者を遣わし、劉表に友好を示すのだ」
「黄巾の粛清を目論んだ孫策が」
「今まさに黄泉に落ちんとしている」
その日の午後、太平道軍は撤退し、城内に潜伏していた部隊も忽然と姿を消した。
黄巾兵「退けー!」
黄軍兵士「孫策の副軍が退いたぞ!」
「小覇王もこれで終わりだ!」
甘寧「これで終わりだ!」
甘寧の一撃を辛うじて受け流す孫策。
黄祖「流石は甘寧!」
「たとえ孫家の親子といえど、わしの手からは逃れられんわ!」
甘寧「それはなんのつもりだ?なぜ守りに徹する?」
孫策「機会を待ってんだよ」
「一石二鳥の機会をな」
甘寧「まずは自分の心配をしたらどうだ!」
孫策「俺の命なんざ軽いもんさ!」
駆け出す甘寧。
すれ違いざま、孫策の剣が甘寧の乗馬を捉えた。
甘寧「噂通りだな。その武力、呂布にも引けをとらん」
孫策「呂布がどうしたって?」
「奴はこんなに狂ってたのか?」
後方の船上で轟音が響き、大勢の兵が吹き飛んだ。
孫策「これが孫家のやり方だ」
孫策を包囲する兵たちを薙ぎ倒しながら、地上に降り立つ太史慈と黄忠。
太史慈「もう一度だ!」
黄忠「よかろう」
両者の生み出す衝撃で、また兵たちが吹き飛ぶ。
甘寧(黄忠殿!)
黄忠「やるのう」
太史慈の頭から血が伝う。
太史慈「ご老体も」
黄忠「お主は運が良いぞ。二十年前なら、お主は今頃ひき肉になっておったわ」
孫策と太史慈といえど、この状況下では如何ともしがたい。
甘寧「孫策、太平道の援軍は我が身可愛さに、とうに撤退したぞ」
「あとはお前が死ねば、江東の全ては我らのものとなり、孫家は何もかも失うというわけだ」
孫策「自立したその日から分かってんだよ」
「大事を成すには犠牲を恐れちゃいけないってな」
「これは凌操も通った道だ!」
太史慈「その通り!すべては少主のために!」
「孫権殿は我ら以上に手ごわいぞ!」
甘寧(凌操の道だと?)
韓晞の第六軍の船団が船場に迫る。
伝令兵「第六軍がすぐそこまで来ています!で…ですが……」
黄祖「韓晞!そなたには左の城を任せたはず!ここ主城ではないぞ!」
なおも船が止まる気配は無い。
黄祖「ぬお!」
黄軍兵士「ぶつかる!」
第六軍の船が停泊していた船に激突した。
更に大小の船が続々と到着する。
黄軍兵士「第六軍が城内の船場に着岸しました!」
黄祖(か…韓晞の第六軍ではないだと!)
(と…ということは)
船首には周瑜の姿が。
周瑜「太平道は言行一致せず、信義に背いた。
これにより江東の民の怒りを買うは必定。程普殿は討伐の口実を得た」
「まず沙羨を攻め、更には黄巾をも取る。これぞ一石二鳥、か」
「伯符、お前は本当に狂ってる」
その日以来、周瑜は孫策のやり方に胸騒ぎを感じるようになった。
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「孫策這小子一心想除黄巾、現在、還不是入黄泉了」
この許貢の台詞の訳はちょっと自身がありません。
具体的には"還不是"をどう訳せばいいか分かりません。
"まだ(orやはり)〜でない"と訳すと、「まだ(orやはり)黄泉に落ちていない」になりますが、
今や孫策の命は風前の灯で、許貢もそう思っているのにこんな台詞が出るとは思えません。
そこでググってみたら、"還不是"には「結局」「どうせ」という意味や「後に続く部分を強調する」
役目があるとか。
状況的にはこちらの方がしっくりくるので、これを踏まえて訳しました。
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